恋は盲目【映画感想】鑑定士と顔のない依頼人
DVDにて。
原題:The Best Offer
【あらすじ】
あるところに腕は確かだけれど孤独な人生を送っている初老の男性がおりました。忙しくしていると、女性から電話があり、両親の遺品を鑑定してほしいと依頼がありました。彼女のヴィラに行ってはみたものの、あれこれ理由を並べるばかりで女性は一向に姿をみせません。業を煮やした彼は、帰ったふりをしてこっそり彼女の姿を見てしまいます。するとその美しさにたちまち惹かれてしまったのでした。しかし、彼女は広いところに出るのが怖い広場恐怖症という病を患っていました。どうにかして彼女の気を引きたい男は友人の機械職人に相談しますが・・・。
【感想】★★★★☆
ずっと気になっていた作品ですが、「スッキリはしない」と聞いていたので、敬遠していましたが、他の人に勧められたので見てみました。ほとんど予備知識なく見始めたのがよかったです。見終わった後は、なんとも言えない感じになりましたね・・・。音楽や肖像画など素敵な小道具が散りばめられていますが、それに気をとられすぎると大変です。
途中、機械職人のロバートのアドバイス通りに彼女の誕生日に花を持っていくあたりで完全にヴァージルに感情移入してしまいました。素直でかわいいなと。もう「がんばれヴァージル!」って状態ですよ。それからしばらくは先が読めず、面白かったのですが、ヴァージルが彼女をあの部屋に入れた時点で先が読めました。ヴァージルはずるいことをして絵画を集めていましたが、それ以外は悪い人ではないと思うんですよね。
あれこれ書いてしまうとネタバレになりそうなので、あとはネタバレ感想で。見た後にふと「穴」に気づいてしまったので、それについても書きました。
予告くらいの予備知識で見てほしい映画です。
この先は、ネタバレになってしまうので、未鑑賞の方はご注意ください。
文字色を薄くしてあるので読みにくいときは、反転させて読んでください。
ラストはヴァージルがかわいそう過ぎて・・・。ネットで考察をいくつか読みました。
するとハッピーエンドという解釈があるようで少し救われました。
確かにあのレストランで終わるラストは意味深です。監督もわざと含みを持たせるようなラストにしたのだと思います。
ハッピーエンドと解釈するには・・・。
まず、クレアが本当にヴァージルを愛し始めていたと考えるところからです。ヴァージルがいるときに出版社の人(?)から電話が入ります。本当はビリーかロバートだと思うのですが、そのときに「結末を変えたい」とクレアは話しています。「明るいエンディングに変えようかと思う」といった内容だったと思います。これが、彼らの作戦の話ではないかと思うのです。彼女はヴァージルを裏切って姿を消すのではなく、他の結末を考えたかったのではないでしょうか。そもそも彼女はこの計画から土壇場でも降りれたんですよね。絵が盗まれても「知らない」と言い張ればヴァージルは信じたと思います。
あの秘密の部屋に入った時に、クレアは「この先どんなことがあってもあなたを愛している」とヴァージルに言います。これが彼女の本心ではないかと。だって、そんなこと言う必要がないんだもん。「どんな贋作にも真実が宿る」これがキーワードとなってるからには、何かが真実なんでしょう。
そして、クレアは一度は姿を消しますが、介護施設にいるヴァージルに手紙を出します。ヴァージルの秘書(?)が郵便物や雑誌を届けに来たときにそれも届けられたのではないでしょうか。
内容は、そのあとヴァージルがとる行動から推測するしかないですが、プラハの大きな広場の前のアパートを借りることも、レストランで待ってるのもその手紙に指示としてあったのではないかと。ヴァージルの性格を考えると広間の前に住むなんてにぎやかすぎると思うのです。
ヴァージルがレストランで人待ち顔なのは、本当にクレアと待ち合わせしてるから。誰も来ないのにウェイターに「待ち合わせしてる」と告げるなんてプライドの高いヴァージルがする行動とは思えません。そんな嘘をつく理由もないように思えます。だってだれかが来るまで料理も来ないでしょ?だから、あのシーンの後クレアが現れてハッピーエンドになると解釈してなんとか気持ちをおさめました。
とは言え、広場の前のアパートは彼女を見つけやすくするため。レストランでは、彼女が来るのを期待して待っているだけと考えることもできます。このへんのさじ加減にやられたなぁと思いました。
個人的にすごくおもしろかったのが、ヴァージルが介護施設で宇宙飛行士が訓練で使うような乗り物に乗ってグッルングルンと回されてるシーン。これまで心をブンブカ振り回されてきたから、今度は身体も回ってるのね。
ビリーは黒幕で多分主犯ではあるんですが、ヴァージルに気づいてほしかったような言動をします。「人間の感情も偽造できる。・・・病気も」「会えなくなると寂しいよ」なんて漏らします。どこかでヴァージルに気づいてほしかったのではないでしょうか。
そして、ロバート。彼が一番くせ者。あんなに人の好さそうな顔して・・・。彼も共犯だとわかったときはびっくりしました。でも、うまくヴァージルをコントロールしていたのは彼なんですよね。
一つだけこの計画には「穴」があると思いました。それは、クレアが失踪したときにヴァージルが出版社に電話をしているんです。そこで、クレアの正体がばれるように思います。もし、クレアが本当に作家だとしたら出版社の人に「ストーカー被害にあったいるから居場所を教えないで」などとお願いすれば口裏を合わせてもらうことはできそうですが、「作家」というちゃんとした地位を持ってる女性がヴァージルを陥れるような計画に加担するとは思えません。
クレアが本当は作家ではなく、本当に実在している作家=クレアだとしていたら、出版社の人からその作家に連絡がいって、ばれると思うんです。「普通に自宅にいましたよ」なんてことになりかねない。そのあたり、どうやって切り抜けたのかと不思議に思いました。
だんだんと組み立てられていくオートマタがヴァージルと重なって、とてもいい演出になっていました。カフェにいる小人症のクレアも、ずっと気になってしまいました。
こうしてみるとまんまと監督の思う壺にはまっていますね・・・。